危機管理メディア対応マニュアル

危機管理メディア対応マニュアル『危機管理メディア対応マニュアル』
~あなたが広報担当の時、不祥事が発生したらどうしますか?~
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はじめに

企業がいかに法令を遵守し、コンプライアンスを重視し経営を行っていても、その努力・成果を知ってもらわなくては社会から好感を持たれません。そのためには、企業側から積極的に「知ってもらう」ための「伝える作業」が必要になります。

しかし、個々の企業の「体質」など一般にはなかなか分かりません。社会の一般の方々が手にすることのできる情報量は極めて限られたものだからです。その企業に何かが生じた時、報道を通じてその関係する企業の実情を理解するのが社会一般のあり方です。その実情への理解も、新聞・雑誌・テレビなどといった「メディア」を通じて得られる情報に基づいています。報道された情報でその企業を判断しているわけです。

毎日のように企業、自治体、学校などでの不祥事を目にします。それぞれの組織の責任者がメディアのカメラの前で謝罪をする姿を繰り返し目にします。その姿を見て社会の人々はその組織や個人への判断をします。真摯な態度で臨んでいるのか、高圧的態度で上から目線を感じ取るのか、言葉に誠意を感じるか、など。一挙手一投足がその組織のその後の活動へ大きな影響を与えることになります。

この小著では、メディア・リレーションの基本的理解と危機対応広報などの在り方を解説したいと思います。ご自身が属する組織で実際に何らかの不祥事や事故が発生してしまった場合、どのような対応をすればいいのか、どのような点に注意をすべきなのかというテーマに絞って解説していきます。

広報の業務は大変にカバーする領域が広いので広報活動全般は扱いません。別の機会で解説が出来ればとお思います。

何か問題が発生した時に社内や顧客に対して説明責任が求められるのは広報担当者だけではありません。

多くのビジネスマンの方々にも読んで頂ければ参考になると思われます。現在では、企業は多くのリスクに囲まれています。自社商品に欠陥があった、工場で事故が起きた、災害、特許侵害の紛争に巻き込まれた、法令違反、情報流出、社内不正など。実に様々なリスクに取り囲まれています。

ネットリスクやシステムリスクとい状況にも晒されています。こうしたリスクが現実のものとなった時、いかに冷静に対応するか。その対応に社会の眼が向けられているのです。

企業や組織の行動に対して、社会から反感を受けない好意を持たれる対応を取ること、また、そのような対応を正確に伝えること、この2つのポイントが最も重要になるのが緊急時の広報対応と言っていいでしょうか。一緒に確認をして参りましょう。

内容

  1. 1. 緊急対応時担当者としての心得
  2. 2.緊急対応時の担当者に必要なテクニック
  3. 3.緊急時の記者会見においての具体的対応
  4. 4.緊急記者会見で行うべきこと
  5. 5.緊急記者会見の会場の設営と進行
  6. 6.緊急記者会見の事前準備
  7. 7.緊急記者会見の準備チェックリスト
  8. 8.会見当日とその後

参考資料
記者会見会場レイアウト例
記者会見外見チェック表例


1.緊急対応時担当者としての心得

記者会見などの危機管理の場面では自分の発する言葉だけが頼りです。手持ちの渡された武器はご自身の言葉だけです。真剣に言葉を学び、言葉を選び、その結果や影響を考えなくてはなりません。相手を理解させ、納得させる表現を絶えず念頭に置く必要があります。

「良質なコミュニケーションは、信頼関係の基本」が重要なポイントです。先ずは習得しておくべき手順を見ていきましょう。 

今、この原稿を書いているのは2021年の12月になります。今年一年も様々な組織で不祥事が発生しました。振り返ってみる大手企業では、大和ハウス工業の社員が施行管理技士資格を不正取得、三菱電機株では鉄道車両向け空調装置の不正検査、トヨタ自動車の全国の系列販売店で不正車検、LINEペイで国内外13万件の決済情報漏洩など。企業以外の組織では自治体や教育現場で不祥事も多発しました。

流通科学大学の准教授酒気帯び運転で現行犯逮捕、静岡県男性職員が女性宅に侵入しわいせつ行為で逮捕。郵便局職員が廃棄予定の郵便切手9400万円相当の着服で逮捕など。枚挙に暇がありません。

マスコミをにぎわせた各企業や団体、大学にはいずれも広報担当部署がありマスコミ対応を行いました。大企業などは、メディア・トレーニングを言って緊急時のメディア取材対応を事前にトレーニングするプログラムを受けることも少なくありません。

そのような訓練を受けていてもなかなかスムーズには対応が出来るものではありません。むしろ対応を間違え、その後のメディアの報道がさらに厳しいものになることさえあります。

 あなたの会社も、いつこのような事態にならないとは言い切れません。どのような不祥事が起きるかは分かりません。「うちの会社には関係ない」と無関心ではいられないのです。だからこそ、会社の危機を救うために、「緊急時のマスコミ対応」の重要性をきちんと理解し、そのノウハウとテクニックを事前に身に着けておくことが非常に大切になります。

2.緊急対応時の担当者に必要なテクニック

1)自分の言葉で語りましょう

対話するなかで相手が記者であっても一般の人々であってもビジネスの交渉相手であっても相手からの印象をよくする基本は、用意された原稿や資料を読み上げるのではなく、自分の言葉で語ることです。メモを用意してあったとしても、肝心なところは必ずメモから目を離し、記者を見ながら語りかける姿勢は、最低限身につけておくべきでしょう。

普段の生活の中でも相手の表情を見て語り掛けることはマナーとしても身に着けられることかと思います。また、口調が早口にならないように気を配りましょう。NHKのアナウンサーのニュースを読む速度は1分間に300文字程度だそうです。

このくらいの速度が相手の理解が妨げられない速度と言われています。ご自分で300字程度の原稿や文章を声を出して読んでみてください。かなりゆっくり話していると感じると思います。あまり早口で説明をしても何度も同じ質問をされてしまいます。

これはビジネスの場のプレゼンテーションでも同じことかと思います。自信をもってゆっくりと語りましょう。声のトーンもできる限り抑えて話します。

男性の低い声で話す方が、聞き手の信頼感を得るというデータもあるようです。女性の比較的高いトーンの声よりも男性の声の方が会見の場での説明には向いていると言えます。

かなり以前ですが、政治家が国会でメモを用意せずに代表質問に挑んだことがありますが、その際には、「メモを持たず」という報道があちこちで流れ、報道関係者からは非常に好意を持って受け止められたことがあります。

国会のテレビ中継などを見るとこのようなメモ無し対応がいかに稀かがわかりますね。自分の言葉で語るということが評価されたわけです。

自分の言葉で語らない代表格は、最近の例で言えば、日本大学の理事のケースでしょうか。関係者の記者会見にはいつも代理人の弁護士がいて質問には事務的に答えるのみ。これでは決して世論からの支持は得られないでしょう。

 言いたいことがあれば、複数のメディアを前にして自分の言葉で語るべきなのです。自分の言葉で語らない人や、自分に都合のよいメディアや記者の前だけで語るのでは、世論からの支持を受けることはできません。

2)記者のペースにはまらない、自分のペースで話しましょう

取材がうまい記者ほど、高飛車に出ることや、相手を追い詰めるような話し方で情報を取ることは最近ではないと思います。柔和な姿勢で情報を取っていきます。記者がメモを閉じたからといって、取材が終わったと思ってはいけません。

立ち話しでも質問は続いているのです。別れ際の一言を記事にされてしまったということもあります。記者のペースではなく、自分のペースで話しましょう。

 昔懐かしい『刑事コロンボ』のコロンボ刑事が帰る間際にいつも「ああ、すみません、もう1つだけ質問があるんですが」といって真実に迫る質問をしますよね。

あれです。そこで表情が変わってしまう、答えを濁すとかなり悪い印象を残します。せっかくうまく記者との対応をやり過ごしても台無しにしてしまいます。

 また、当初の取材テーマと異なる方向へ話が進んでいくようであれば、「それについては次の機会にしてください。今、お話しできる段階ではないので」と相手を尊重しつつ、打ち切るのがベストです。

記者のペースにはまりそうになったら、こちらから記者に質問をして「あなたはどのようにお考えですか」と切り返すことも一つの方法だと思います。

3)答えにくい質問、関係のない質問には一般論で受けましょう

普通の生活の中でも企業活動の中でも、質問されても答えにくい質問というものは必ずあります。例えば、次のようなものです。「今回リストラをされましたが、企業としての責任についてはどのようにお考えですか?」 「御社の安全管理対策に、問題はなかったのですか」「事件を起こした社員を解雇しましたが、社員個人の問題なのですか。企業としての責任はないと考えているのですか」「工場周辺の地域住民に対して、安全対策の説明会をしないのですか?」など。

 会見の目的やテーマと関係のない質問をしてくる記者は必ずいます。そのような時に、本件とは関係ありませんからとあしらうよりは、一般論で受けて、本題につながるように方向転換を図るべきでしょう。ノーコメントよりも一般論で受けましょう。

例えば、自社新サービスの発表時に業界の先行きの不透明感や株価低迷について聞かれたとしたら、「コロナ禍で経済全体が厳しい状況のなか、国の経済刺激策にも期待したところです。わが社の新サービスは市場を刺激すると確信しています。

なぜなら、この新サービスの魅力......」と、いったん受け止め、一般論化して自らが発信したいポイントにつなげていきます。本題と関係あり、しかも核心を突いていれば、謙虚に受け止め、「改善策等検討中である」ことをコメントしましょう。核心を突かれたら、謙虚に受け止めましょう。
 
4)肯定的な表現を用いましょう

肯定表現を使う練習を心がけましょう。例えば、ある事業から撤退するとします。それは経営資源の選択と集中であり、不採算部門を縮小あるいは閉鎖して効率的な経営目指すといえます。事業統合であれば、吸収なのか合併なのか、対等か救済か、与えるニュアンスは異なります。どんな状況も二面性はあります。より肯定的表現を使用するかは、意識転換やトレーニングで習得できます。

5)話しの主導権を握りながら話しましょう

話しの主導権を握るコツは、自分から最初に話すことです。インタビューであっても多人数の会見であっても、伝えたいことをはじめに十分話してから質問を受けること。自分のペースを守れて主導権を握ることができます。インタビューの場合、記者からの質問を受けるわけですが、事前にテーマはわかっているわけですか、「今日は、○○についてのお話ですよね。資料なども用意いたしまた。」などと自分から話し始めていくことでペースを作ることが可能です。

何かの事故や安全管理上の問題で記者会見を開く場合にも、謝罪するだけではいけません。今まで安全管理のためにどのような体制を構築してきたのか、問題があったとすればどこに原因があったのか。図や映像などで先に詳しく説明します。

謝罪会見となると、早く終わらせたいという気持ちから、説明が短くなりがちです。しかし、それは間違いです。謝罪会見の時こそ、十分に時間をかけて説明すべきなのです。説明が丁寧で分かりやすければ質問は少なくなります。また、相手の質問に回答するだけでなく、それを発展させて伝えたいメッセージをコメントすれば、常に主導権を握り続けることができます。

3.緊急時の記者会見においての具体的対応

1)謝罪は具体的に、「遺憾である」は謝罪ではありません

「申し訳ございません」を、連呼してもマスコミは納得しません。何を詫びているのかわからなければ伝わらないのです。 必ず「○○についてご迷惑、ご心配をおかけして」と具体的に表現してください。

「お騒がせして」という表現は謝罪の意味はありません。「知られなかったら別に構わないのか」という印象を受けます。

また、「遺憾である」という言葉も謝罪の言葉ではありません。そうそも残念だ、という意味の言葉で外に向けて発信する謝罪の言葉ではないので使い方に注意しましょう。

2)社会がどう見るかを意識した謝罪と心からの反省の気持ちを伝えましょう

言葉の選び方を間違えると、マスコミや社会から「反省していない」と批判されることになります。どのような言葉を使ってよいか迷った場合には、指摘されている言葉を引用し、何に対して謝罪を行っているのかを明確にすることです。最近は、SNSで不適切な言葉が拡散されてしまい、いつまでも事態の鎮静化にたどり着かないこともあります。生じたい具体的事象につき謝罪を行うことが肝心です。

謝罪にはまずその気持ちの表明が大切ですが、形を軽視すると、その気持ちが伝わりません。どのような形にすると一番気持ちが伝わるかを考えておく必要があります。

謝罪の気持ちを伝える形はしっかり身につけましょう。謝罪で頭を下げる場合には、頭と手の位置に神経を使います。手は横につけ、背筋を伸ばしたまま頭をしっかりと下げ、3秒は静止します。

よく会議の席上で見受けましが、目の前の机に手をついて頭を下げるのはいけません。これは謝罪の形にはなりません。スーツのボタンは掛ける。ボタンをかけていないとネクタイが下がりみっともない姿になります。数名で頭を下げる際には、トップの方にタイミングに合わせましょう。

ペンを手でいじくったり、書類を手で丸めたりするアクション、脚などの体の動きにも注意を払うべきです。人間の癖は思わぬところで出ます。対応に窮するような場面でのアクションはカメラなどでも写されてしまいます。記者会見場などに用意する机はカバーを掛けたり、脚が見えないようにするなど工夫すればいいでしょう。

4.緊急記者会見で行うべきこと

まず、緊急記者会見で伝えるべきことは、次の5つです。

  • 事実の説明:何が起きたのか、事実を説明する
  • 経過と現状:把握できる限りの事実の経過、対策本部などの設置について説明する
  • 原因:確定した原因、現状で推定できる原因について説明する。 究明中である場合には、どのような体制で調査しているのかを説明する
  • 再発防止策:制度の制定、管理委員会の設置など具体的な防止策を打ち出す
  • 責任表明:トップの引責、責任者への厳しい処罰、被害者への賠償等世論が納得する内容で責任表明をする

(4)と(5)は後日の告知となる場合もあると思います。

 これらのことは、「ポジション・ペーパー」を作成して各部署からの関連情報を集中して整理する文章になります。上記の(1)から(5)までが整理され社内的にも事案の認識を統一させて誤解が生じないようにします。

内容に説得力を持たせるために、さらに資料などを使って詳しく説明するとよいでしょう。事故の場合には、地図を使用すると場所が明確にわかります。製品トラブルの場合には、実際にトラブルのあった製品を用意し、中身や成分の説明などを行います。

できるだけ言葉による説明だけでなく、必ず視覚でも納得できるような写真や絵を準備するようにしましょう。重要なのは「なぜ起きたのか?どのように起きたのか?」という「事実」であり、記者会見はその情報を提供する場所であることを念頭に置きます。

■緊急記者会見でしてはいけないこと

冒頭に「本日はお忙しい中お集まりくださいましてありがとうございます」のような前置きはやめましょう。また「会見は〇〇分です」のような時間で区切るような発言も控えます。緊急時の会見を設定しておきながらその場を軽視する印象を与えてしまいます。説明時間をしっかりと取り、最後の一問まで誠意をもって答えるという姿勢でペースを作ってしまいましょう。

■責任回避はしない

 最初に自己弁護の言葉を発しないことです。反省の態度が感じられない、責任回避と受け止められてしまうからです。 ハッキング被害による顧客情報漏えいなどの場合は、企業は被害者という側面もありますが責任回避となるような発言はしないことです。まずは、「お客様にご心配とご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします」とこの発言が肝心です。

5.緊急記者会見の会場の設営と進行

記者会見の会場を設営する際には、会場となる場所内のレイアウトが重要です。各メディアの記者の動きを想定しながら設営をします。レイアウトを失敗すると、時には混乱を引き起こしてしまいますので注意が必要です。レイアウトを決める際の注意事項を確認します。

■会場のレイアウトに注意!ドアが「2カ所」以上ある場所で行う

記者と会見を行う人(スポークスパーソン)の出入口を別にすること。つまり、会見を行う人の後ろ側、あるいは、司会役の人の後ろ側に出入口があることが望ましい。
記者が出入りするドアと同一のドア一ヵ所しかない場合、ドアを塞がれて身動きがとれなくなってしまいます。いわゆる、記者の「ぶら下がり」という状態になってしまします。このタイミングでの一言が記事になってしまったりします。気を付けましょう。

■スポークスパーソンのテーブルと記者のテーブルを離す

カメラマンが自由に撮影できるよう前方にスペースを作ります。記者側とカメラマンとのストレスを少なくするためです。記者席を離すことで一定の距離ができるため緊張感を和らげる効果があります。

■記者席の「最後尾」にテレビカメラ用のスペースを作る

テレビカメラ用のスペースがないと好き勝手な場所から映像を撮ってしまいます。記者席に後ろにテレビカメラ用のスペースを設けておけばいいでしょう。マスコミに対しては、取材がしやすいような配慮をしていることを示すことが肝心です。

■スポークスパーソンの後ろに、スペースを作らない

カメラマンにスポークスパーソンの手元の資料などを撮影させないようにするために、スポークスパーソンの後ろには、スペースを作らないようにします。

■受付は外に設置する

プレス以外の人が紛れ込む場合があります。受付は室外に設置し、名刺を受け取るようにします。追加の資料提供などはあればメール、ファックスで送信する際のためと言って必ず受け取りましょう。

■スタッフの配置チェック

スポークスパーソン以外に、司会進行役、記録係(ビデオ、写真、メモ)、スポークスパーソン護衛係を決めおきましょう。護衛係はスポークスパーソンの会場への出入りをスムーズに行えるようにサポートします。

■緊急記者会見の進行ポイント

記者会見の進行のポイントは、誰がスポークスパーソン(発表者)になるかと会見の時間配分です。社長がスポークスパーソンとして会見に臨むのか、あるいは他の役員が行うのか。

仮に社長不在の際に緊急の会見を行う場合、社長の所在は必ず確認しておきましょう。社長が会見に出席しない場合、なぜ、出席しないのかを質問する記者もいますので、ウソはいけません。出張であればそのまま伝えてください。

詳細説明は現場担当者が行ったほうがよいでしょう。広報担当者が一通りの説明を行って、補足説明を現場担当者が行うという形でもよいでしょう。記者が理解できるように説明をすることを心掛けてください。

  • 加盟記者クラブ、取材要請のあったメディアに、電話やFAXで会見日時と場所を知らせる。
  • スポークスパーソンの着席は、開始時間に合わせる。早すぎても遅すぎてもいけない。
  • 前に出たら、一礼する。この時スポークスパーソンが複数の場合には、頭の位置をそろえる。頭の下がり方やタイミングが異なると、撮影された写真が非常にみっともない。
  • 用意したステートメントを読み上げる。読み上げることで落ち着きを保つ。その後は、自分の言葉で説明をする。
  • 1時間程度で終了してよい。あまりも短く終了させない。しっかりと質問を受ける。
  • 質問が途切れたら、終了のきっかけとする。
  • 質問が途切れず、スポークスパーソンが答えられる情報の限界の場合、いったん会見を終了します。質問のみ受け付け、回答は次回の会見時間にできるようにします。次回会見の時間などを説明し終了する。
  • 終了後、スポークスパーソンはただちに会場を後にする。ぶら下がりをさせない。

6.緊急記者会見の事前準備

■どのような場合に緊急記者会見を開くのか。

まずは第一に社会的な影響が大きい場合、次に命にかかわる問題や公共の利益にかかわる問題が生じた時には、緊急に記者会見をしなければなりません。不祥事の際でも、緊急記者会見を開くことで謝罪の気持ち、会社の対応方針を伝えることができます。
 謝罪の気持ちを伝えたい場合には、社告(企業が、新聞やホームページなどで一般に向けて出す通知)だけではなく、記者会見で気持ちを直接伝えるほうがイメージアップにつながります。災害などの事故の際には、数回記者会見を開くなどして、記者への情報提供を心がけます。緊急記者会見をしなければならない場合は次の通りです。

  • 事故や事件により死亡や負傷者が出た時
  • 社長や役員が逮捕された時
  • 公害・環境汚染の噂・心配の声が広がってきた時
  • 欠陥商品・製造物責任が生じた時
  • メディアからの問い合わせが殺到して対応に限界がある場合

ここで「記者クラブ」について付け加えておきます。「記者クラブ」という存在は皆さんご存じかと思います。記者クラブは、公的機関や業界団体などの各組織を継続して取材することを目的として、大手メディアが中心となって構成されている任意組織のこと、と定義されています。

新聞社や放送局などの記者によって構成されており、各省庁・行政機関、警察や消防などの公的機関、東京証券取引所や商工会議所などの業界団体内に設置されています。
今回は、緊急時のメディア対応の手順をご説明していますので、それぞれの企業や組織で何かを自発的に告知したい場合は、それぞれ該当する記者クラブへの接触を図ることになります。

ですので、記者クラブへの対応の手順などは別途、解説したいと思います。広義にとらえれば、メディア・リレーションの取り方というテーマになろうかと思います。改めて、用意しますのでご期待ください。

7.緊急記者会見の準備チェックリスト

■会見の手順

緊急記者会見をしなければならないとなったら、すぐに準備をしなければなりません。準備する際の注意事項は次の通りです。

■会見の時間はできるだけ早く

人命にかかわる事故の場合には可能な限り速やかに実施します。

■会場は、自分たちでコントロールできる場所とする

必ずしも本社や記者クラブで行う必要はありません。現場の近くの安全な場所で構いません。必ず1カ所で行います。設営は先に述べたようなポイントに注意してください。

■緊急記者会見案内状の作成と配信

主要メディアに緊急の記者会見を行うことを知らせます。深夜であっても、すぐ出すのが基本です。

■適切なスポークスパーソンを決める

現場の状況を説明できる人と最高責任者が基本になります。最高責任者が不在の場合には、副社長や担当取締役が行います。社長不在の場合にはその理由に関しては嘘をつかない。

■報道資料の準備をする

マスコミ向けステートメント、会社概要、設備概要、安全基準説明書などを準備します。ポジション・ペーパーの作成段階で情報は整理しておく。

■メッセージを準備する

自分の言葉で語れるメッセージを用意します。実際に声に出して読んでみる。

■想定問答集の作成

ポジション・ペーパーに基づいて質問を想定しておく。

8.会見当日とその後

1)NGワードについて

緊急事態発生時のコメントについては、マスコミは非常に神経質に反応します。使用しないように心得ておくべきいくつかのワードを上げておきます。

■「知らなかった」

組織のトップがすべてを把握しきれないことは現実的にはあることだと思います。しかしたとえ事実であっても、初めから知らなかったと言えば、それは責任逃れのように聞こえてしまうのです。「組織の管理体制として監督が行き届きませんでした」という表現にすべきです。

■「法的には問題がない」

記者会見では、法律を守っていたかどうか、を聞くことはありません。法律を守っているのは当たり前の話で、違法な事態を続けていたとしたらその企業の存続は無理です。企業に求められているのは、法律で定められている以上の、自発的な努力であり、取り組みです。「我々は法律の定めるところで万全の対策を立ててきたつもりでしたが、残念ながら今回の事故を引き起こしてしまいました。社会的責任を痛感いたします」として、今後の取り組みをさらに徹底したいという方向での発言にしましょう。

■「業界の慣例としてやっていた」

業界の慣例として行っていた発したくなると思います。とはいえ、「他社もやっていることなのに、なぜ当社だけが責められるのか」などという言い方は絶対にしてはいけません。意識改革が必要です。

■「重大な事態ではない」

誰しも責任を厳しく追及されれば口をついて出てします言葉です。「これだけの事故を起こしたのだから、操業停止にすべきだ」「全品回収すべきだ」という追及に対し、「それほど健康に影響はない」「全面操業停止にするほどのたいした事故ではない」と言ってしまうのです。このような場合は、自社だけの判断ではなく外部の専門家にもよく相談して決定したいなどとするのがよいでしょう。
以上が、緊急時のマスコミ対応において発すべきではない言葉をいくつか上げました。これらがすべてではありませんが、自社の言い分を理解して欲しいという気持ちは理解できますが、慎重に言葉を選ぶことが肝心になります。

2)トラブル回避のため映像を記録

報道関係者は必ず映像を要求します。会社側で撮影が可能であれば必ず用意しましょう。記者会見の収録ビデオは、仮に一方的な報道をされた、誤解を招く報道をされた場合に、自社のホームページで動画配信することで生じた誤解を解くことができます。自社の撮影スタッフは必須です。会見での配布資料にも画像資料を加えることで記者側の理解も進みます。

3)記者から社員が質問を受けたら 

マスコミ対応の基本は、ワン・マウス(一人の担当者を決めてその方がすべて受け答えする)で行うということですが、関係者や取引先へも情報収集を行います。また、社員への取材も想定されます。そのような場合、第一には公式なマスコミ対応窓口があることを知らせます。仮に、会社に責任があることが明確であるような場合には、社員一人一人が反省の態度を示すことも大切です。社員には必ず会社としての公式見解文書を渡し、その見解に沿った対応をするよう指示しておくことが必要です。基本は、広報担当が取材対応をする旨を明確に返答することです。

4)ポジションペーパー(公式見解)をHPなどに掲載する

緊急事態発生時には、速やかに自社ホームページに「公式見解」を掲載するべきです。緊急記者会見を開催した場合、そのタイミングで掲載できれば理想的です。一般の人々が情報を確認するのはホームページを通じた情報です。その情報を提供しない、掲載が遅いのではいい印象を与えません。開示する情報の内容としては以のような流れでいいでしょう。

■第1段階:お客様・関係者へのお詫びをし、社内調査を開始したことを知らせます。
■第2段階:調査の経過報告を行います。確認できた新しい事実を加える。
■第3段階:再発防止に向けて具体的な対策を説明し、理解を求めます。
 
ポジション・ペーパーでは、事実、経過、原因、対策、コメントを、A4用紙1、2枚程度にまとめます。このポジション・ペーパーの作成によって、認識が統一され社内的に共有されることで、誤解を防ぐことができます。記者からの想定される質問も落とし込むことが必要です。記者から質問されそうなことを先に文書化しておけば落ち着いて対応ができます。

  • 事実
    誰が、いつ、どこで、何を、どのようにしたか、を明確にして、5W1Hの形で簡潔に記載します。
  • 経過
    発生時から現在に至るまでの経過を日時、時間単位で箇条書きにします。経過の結果、現在どのようになっているかの状況説明も加えます。
  • 原因
    発生から発表までの時間がない場合には、「原因を究明中」という一言に尽きます。絶対に憶測事項を記載してはいけません。発生からすでに時間が経過し、状況証拠からある程度原因を推定できている場合には記載します。
  • 対策
    発生から発表までの時間が短い場合には、「今後対策を検討し......」という言葉でよいですが、「いつまでに対策を発表する」という具体的な日時だけでも記載したほうが、記者からの攻撃を少なくすることができます。二度と同じ過ちを起こさないために具体的に何をどうするのかの記載も必要でしょう。お決まりの文章のみであれば、口先だけという印象を持たれます。
  • 見解(結論)
    起きてしまった事件(事故)について会社としてどう思うのか、どのように結論づけるのか、どう責任をとるのかを記載します。ここが、会社としての公式見解となる重要な部分になります。反省すべき点は反省し、謝罪すべきことは謝罪し、主張すべきことは主張しましょう。

5)トップへの情報伝達の「速さ」が肝心

緊急記者会見で必ず受ける質問は、「社長はいつ知りましたか」「その時社長どこにいましたか」です。組織が大きくなればなるほど情報がトップへと伝わるのに時間を要します。しかし、緊急の場合は、いかに早くその事案をトップへ伝えるかは非常に重要になります。「知らなかった」は通用しません。無責任な経営者だという印象を与えるだけです。

6)マスコミやメディアの背後には多数の読者・視聴者がいる

記者の背後にいる「読者」という名のステークホルダーの存在を忘れてはいけません。記者会見となって複数の記者が集まれば、背後は社会そのものになり、記者たちとの対面はまさに社会の対面と考えるべきでしょう。

7)「コンプライアンス」だけでは、マスコミ対応は乗り切れない

企業の社会的責任だからです。法令遵守をしていても事故は起こるものです。問題は法令違反かどうか、ではなく、被害者が出てしまったことに対しての社会的責任をどうするのか、ということです。弁護士などの法律顧問による法的解釈をそのまま広報的配慮なしに発表すれば誤解を招くことにもなってしまうのです。被害者が出た事件・事故においては、社長はまず、被害者とその遺族に対して謝罪すべきです。目の前にいるのが記者であってもメッセージを投げかける相手は記者の背後にいる人たち、この場合には、被害者の家族たちへのメッセージであるべきなのです。

8)マスコミ対応は、トップマネジメントである

事故や事件に対する緊急記者会見の場にトップ不在の場合には、必ず「社長はどこか、なぜこの場にいないのか、今何をしているのか」と質問を受けます。トップ不在の理由が明確でない場合には、その事に関しても非難的な質問が集中します。記者会見が荒れる、など言いますが可能性は高くなります。記者会見とは、会社の公式見解を述べ、マスコミを通じて社会への通知と理解を求める場だからです。そこに組織の責任者がいないとなればいい印象を与えることはありません。「企業の社会的責任」という言葉は定着しています。企業トップの「社会的責任」への感性が問われる時代になっているのです。メディアを介して、社会との接触をどのようにマネジメントしていくかは経営者のみならず経営層の方々のトップマネジメントに関わる事項であるわけです。

  • 記者会見会場レイアウト参考例 記者会見会場レイアウト参考例
  • 記者会見外見チェックポイント例 記者会見外見チェックポイント例
株式会社PRネットワーク企業概要 2011年、一般企業をはじめ公的機関・団体に対し「広報PR」の代行、コンサルティングサービスを提供するPR会社として設立。企業・団体・組織・個人の活動には、多くの利害関係者(ステークホルダー)が関わっています。ステークホルダーとの信頼関係を構築し、強化するためには、良質なコミュニケーションが必要となります。組織の個性を発揮し、存在意義を高めるためにも適切な情報発信を行うことが肝要です。また、製品・技術をマーケットに訴求させる活動も必須です。活動の特長のひとつは、中小規模の企業様の広報PR支援活動を積極的に行っていることです。従来、メディア露出をご検討されたことのない方々にも無理のないサポートメニューを用意し、各媒体との関係構築を行います。また、危機管理対応としての緊急記者会見などをメディア・トレーニングとして実施も致します。

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